ニュースレター2011年44号

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ニュースレター「がん110番」第44号                  2011.1.20

                       NPO法人 がん患者支援ネットワークひろしま
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NPO法人がん患者支援ネットワークひろしまの会員の皆さま、新年明けましておめでとうございます。
遅ればせながら、新年のご挨拶をさせていただきます。本年も、皆さまとご家族・ご友人にとって、充実した一年になりますことを心から祈念しております。

さて、 ニュースレター「がん110番」第44号をお送りします。今号では、広島県がん対策推進協議会委員を務められている当会副理事長の井上さんが、広島県の「がん対策日本一にしよう」という施策のための提案文を投稿して下さっています。また、書籍紹介でお馴染みの会員井上さんが、自らの闘病記を新たな連載として投稿していただきました。
その他の記事も楽しみにご一読ください。 
 理事長 廣川 裕


● 広島県を『がん対策日本一』に向けた取組み

前回の広島県がん対策推進協議会(8月9日)において、広島県を「がん対策日本一にしよう」という強いメッセージが湯崎知事から発せられたという報告があり、各委員は「何をすればそうなれるのか」具体的課題、施策などを提案することになった。
本来なら、その討議結果をこの場で報告したかったが、その後、協議会が未開催なので、今回は、県に提案した当会の案について報告したいと思う。 
以下の3点について、提案した。

1)がんの未然防止、早期発見率の向上に注力すべき。
長野県は日本一の長寿県でありながら、健康保険の一人当たり使用額は最低と聞く。この理由として、県や市の行政の健康施策が細やかで、お年寄りをはじめ、市民が心身ともに健やかで、病院に行く頻度が少ないからだといわれている。別の世界でも、ものづくりでは、設備の定期点検をキチットして、突発的故障を少なくする努力をしている。この方が、混乱が少なく、もちろん経済的にも効率がいいからである。
がん医療の世界のも、このような考えを導入して、未然防止、早期発見に全力投球すべきだと思う。禁煙、分煙の徹底、定期健診での発見率の向上、がんに対する教育など地道な活動を通して県民ががんに罹りにくくする努力を徹底したいものである。長野県をよく勉強して、がんの世界に取り入れたいものである。

2)がん患者に対する優しさを表に出して
広島県は緩和ケア、ボランティア活動とリンクした在宅ケアなど、患者さんの苦痛を和らげる活動においては全国トップレベルの先進県と自認している。しかし、がん患者にとっていまひとつ大きな負担はがんの医療費が高額なことである。ヨーロッパには、風邪や腹痛などの医療費は個人負担率が高く、がんなどの高額医療に対しては保険負担率が高い国があると聞く。このようなメリハリをつけるのは国の仕事かもしれないが、全国の患者団体と連携して国に積極的に働きかけると共に、早期発見で浮かした原資を使って、患者の経済的負担を軽減する施策が取れるのではないかと思う。上述した事は一例に過ぎないが、もっとみんなで知恵を出して、具体的アクションを取り、物心両面で、「がん患者に優しい広島県」の実現を目指そう。

3)一般県民へのがん啓蒙活動の加速。
先日の新聞で、乳がん、子宮頸がんの無料検診の受診率が低かったという記事を読んだ。がんの怖さについての啓蒙活動をもっと加速すべきである。肺がん、胃がんなどの症状や治療方法などの講座はいろいろな形で広く行なわれているが、がんに罹った時の恐ろしさを「がん」とは無関係の人に知らせる企画はあまりないように思う。確かに、難しいことではあるが、やらねばならぬ。加えて、こんな予兆を感じたらがんを疑えといった情報提供も必要。私事で恐縮だが、私が上咽頭がんを患ったときに、主治医の広川先生からいただいた、アメリカの市民向けインターネット資料には難聴、鼓膜の圧迫感、鼻出血、周期的な頭痛など私が自覚していた症状はすべて記載してあった。こんな情報は、がん予備軍にも役立つのでは。

以上、がんに対する人間が本来持っている自己治癒能力を活性化させることを基本にすえながら、官、医療、県民が一体となって、「がん」という共通の敵に立ち向かってゆくことが広島県を「がん対策日本一」に導くと思う。
副理事長 井上 等


● 新連載「がんになって(1)私もすぐに受診しなかった」

2003年12月21日、職場の忘年ゴルフに行き、次の日から、右手首の掌側が腫れてきた。痛みはなかった。整形外科の先生に相談すると、「血腫でないの、でも一度MRIを撮ったら」。
段々と大きくなるが、年末年始に患者さんが入院し、受け持ち入院患者数が20名を超えていたため、検査を受ける時間はなかった。そして、1月の末には、字が書きにくくなり、パソコンも打ちにくくなった。1月のレセプトが終り、やっと懇意にしている放射線科の先生に相談。「医局会をサボって検査をしよう」ということになった。2月6日午後6時過ぎに行った。すると、「軟部腫瘍です。造影検査を追加させて下さい」と言われた。MRI検査は時間がかかる。検査中、私は疲れきっていて、目をつむると睡魔が襲ってきた。その時すでに、ステージ?Bであった。
医者はよく、「どうして早く病院へ来なかったの」と言う。私は自分ががんに罹って、この言葉を使わなくなった。

※軟部腫瘍とは:筋肉や脂肪、神経など、体の柔らかい部分(軟部組織)にできる腫瘍。発生率は10万人に1.5人で稀な腫瘍。悪性のものを、軟部組織肉腫とも呼ぶ。専門的になるが、がんには、胃がん、肺がんのように、上皮性組織から発生する癌(癌腫)と、非上皮性組織から発生する肉腫に分類される。最もよく知られて肉腫が、骨肉腫。                         
 会員 井上 林太郎


● 新連載 続・「がん」から身を守るために!
続・第4回 肝がんの話

健康を維持するためには、健康を侵すリスク=病気について正しい知識を持って対策する必要があります。3人に1人が「がん」で亡くなっている日本の現状ですが、「続・がんから身を守るために!!」の第4回では、がん死亡の中では男女ともに第4位である「肝がん」の話題をお伝えします。

■肝臓転移と原発性肝がん
肝臓は右上腹部にある1kgあまりの体内最大の内臓であり、消化吸収された栄養素を保存したり、体内で必要なタンパク質や脂肪を合成したり、アルコールを分解したりと、日夜、懸命に働いている体内の化学工場です。
この肝臓には色々ながんが生じます。そのうち肝臓から発生したがんが原発性肝がんで、他臓器のがんが肝臓に転移した肝臓転移(転移性肝がん)と区別します。原発性肝がんのほとんどは、「肝細胞がん」と正式に呼ばれるタイプです。

■肝硬変から「肝がん」に
肝細胞がん(以下、肝がん)の90%は肝硬変の経過において発生します。日本人の肝硬変は、ほとんどがウイルス性ですから、肝がんは肝炎ウイルスに感染することが原因といえます。そして、日本人の肝がんは、C型肝炎が原因のものが約80%、残りの大部分はB型肝炎が原因です。
C型肝炎ウイルスに感染しますと、急性肝炎を起こします。30-40%の人は、自然治癒するものと考えられていますが、60-70%の人は慢性肝炎に移行します。
いったん慢性肝炎になると、60-70%の人は20年前後の経過を経て肝硬変に移行すると考えられています。肝硬変になると、一般的には年率7%前後の確率で肝がんの発生を認めます。肝がんの発生まで、C型肝炎ウイルスに感染して30年前後だといわれています(図は肝炎ウイルス感染後の経過)。

したがって肝がんの早期発見のためには、肝硬変にかかっている人の厳重な経過の観察と定期的な検査が必要です。とくに肝炎ウイルスのキャリアの慢性肝炎、肝硬変、アルコール過剰摂取が原因として重視され、肝がんの危険性がきわめて高いので注意が必要です。

■ウイルス性肝炎のインターフェロン療法
主な肝炎ウイルスにはA型、B型、C型、D型、E型の5種類があります。なかでもB型及びC型肝炎ウイルスの患者・感染者は合わせて300万人を超えており、国内最大の感染症とも言われています。
厚生労働省では、平成20年度からB型及びC型肝炎の「インターフェロン療法」に対する医療費助成を行うこととしました。「インターフェロン療法」とは、免疫系・炎症の調節等に作用するインターフェロンという薬を注射する治療法で、B型肝炎であれば約3割、C型肝炎であれば約5割から9割(肝炎ウイルスの遺伝子型や量によって異なります)の人が根治可能です。
ただし、強い副作用を伴うことが多いので、実施に当たっては十分に担当医との相談が必要です。

■肝がんの早期発見法
肝がんを正確に診断するためには、腫瘍マーカー(AFPなど)、画像診断、腫瘍生検などの検査が行われます。これらをうまく組み合わせることで、早期発見が可能です。
最近、特に進歩が著しいのが、超音波検査、CT、MRIなどの画像診断です。20年ほど前は、肝がんは子どもの頭ぐらいの大きさになって、ようやく発見されることが多かったのですが、最近は、画像診断により、直径1cm以下のがんも発見できるようになっています。
超音波検査は、体の外から体内に向けて超音波を当て、反射してくる超音波(エコー)を画像にする検査です。近年、微小な気泡である超音波造影剤を使った画期的な診断法が進歩してきました。
CT検査は、エックス線撮影とコンピュータを組み合わせた画像検査ですが、体内を輪切りにした断層画像が得られます。造影剤を静脈から急速注入しながら数回撮影することで、高い感度で肝がんを検出できます。最近では、縦切りや斜め切りの断層画像も得られるようになり、病変の把握がより容易になってきました。
小さな肝がんでは、肝硬変の結節との区別が難しいことがあります。このような場合には、確定診断を行うために腫瘍生検を行います。腫瘍部分に体外から針を刺し、組織を採取して、がん細胞があるかどうかを詳しく調べる方法で、腫瘍部分に針を刺すときは、超音波画像で確認しながら行います。 

■がんの進行度と肝臓予備能
肝がんの治療では、まず肝がんの進行度を調べる必要があります。進行度は、がんの大きさだけでなく、がんの数や、転移の有無なども判断材料になります。
さらに、肝臓の機能がどの程度残されているか(肝臓予備能)も治療法を決定するうえで、重要な要素になってきます。肝がんの治療は、肝臓のがんでない組織にも負担をかけることになりますが、予備能が低い場合には、負担の少ない治療法を選ばなければなりません。
つまり、最も適切な治療法の選択には、がんの進行度と肝臓予備能という二つの要素を考慮する必要があります。

■動脈を塞いで「兵糧攻め」
肝がんに酸素や栄養を送る肝動脈にスポンジ状の物質を詰めて血流を止め、がん細胞を兵糧攻めにして死滅させる方法です。
また、この動脈から油と抗がん剤の混合物を送り込むことで、できるだけがんの部分だけを攻撃するように行いますが、どうしてもがん以外の部分にもかなりの負担がかかります。従って、肝臓予備能の悪い患者さんにはこの治療法は行えません。
持続動注化学療法は、血管内に挿入したカテーテル(細い管)を、肝動脈に留置して、そこから抗がん剤を持続的に繰り返し注入する治療法です。
多数の病巣が、肝臓全体に広がっているような進行したがんに対して行います。抗がん剤併用の新しい理論に基づいて、治療効果が著しく向上しており、この方法でがんが完全に消えることもあります。肝臓予備能のある患者さんに限られますが、最近は広く行われています。

現在は、手術以外にも色々な治療法が発達し、肝がんになっても治療することができます。ただし、効果を上げるためにはやはり定期的に検査を受けて、早期発見することが大切になります。

理事長 廣川 裕


● 在宅医のつぶやき 

あけましておめでとうございます。今回はお正月休みです。次回をお楽しみに。
理事 田村 裕幸


●「医療よもやま話: 江戸の“三ない主義”に学ぶ」
医療ジャーナリスト 大谷 克弥
              
 先人たちは後世の私たちに、素朴ながら実に素敵な生き様を教えてくれています。その一つとして、江戸時代の庶民が生きていくために身につけていた生活哲学「三ない主義」の紹介をしましょう。冷房はせいぜいがウチワ、暖房は長屋の親子が一つ布団にくるまって寝ていた時代です。スパッと割り切った考えをしなければ、とてもじゃないがオマンマは食べられませんでした。
 
このことは拙著「健康長寿力チェックノート」でも触れていますが、この興味深い生き様の解説者は、漫画家で江戸文化研究家でもあった故・杉浦日向子さんです。具体的には「モノを持たない」「出世しない」「悩まない」の三つです。
 一番目は、最も基本的な生活の知恵です。通常は土間と一間きりの長屋住まいですから、道具なんぞは置く場所がなかったし、火事でもあればたちまち燃えてなくなるので、モノを溜め込む習慣がありませんでした。「江戸っ子は、宵越しのカネなんぞ持たねえ」というのは、その裏返しで、モノはなくても食には結構、贅沢をしていました。
 次は二番目ですが、長屋の主人公は、大抵が職人衆です。親方に「教えねえから、自分の目で見て学べ」と技術を叩き込まれて、独り立ちしました。出世などとは無縁の世界で暮らしながら、自分の腕にはたゆまぬ探究心とプライドを持っていました。
 三番目の「悩まない」は、ストレス対策として私たち現代人にも貴重な教科書となっています。よく引き合いに出される江戸っ子の台詞〔せりふ〕に、こんなのがあります。「おい、寝ちまえ、寝ちまえ。寝て起きりゃ、別の日だ」。今日は悪い日だったとクヨクヨしたって仕方がない、という意味ですが、「明日は明日の風が吹く」が、この厳しい時代を見事に生き抜いた人々の心意気でした。

 杉浦さんと、私はシンポジウムでご一緒したこともありましたが、「江戸時代の皆さんに比べ、現代人はその三つとも抱え込み、心身ともに疲れ果てている」というのが、常日頃の持論でした。「三ない主義」でなく、今の人々は「三ある主義」と言いたかったのでしょうか。その杉浦さんもがんには勝てず、46歳で2005年に亡くなりました。
 江戸っ子が食に贅を尽くしたという代表は、「女房を質に入れて」でも高価な初ガツオを求めて食べた、と伝わっていることでしょう。勿論、これはオーバーな例えですが、日常のつましい食生活の中にも、健康志向の知恵が一杯詰まっていました。

 江戸庶民に欠かせなかった食べ物は、まず味噌汁、そして納豆、次にメザシ、シジミ、お新香です。ドジョウもよく食べました。値段は安くても、栄養価が高く、現代の栄養学者がこぞって推奨している物ばかりです。値段の高いウナギは、夏バテ予防に土用に食べることをきちんと現代人にバトンタッチしています。
 余談になりますが、最近感心した時代小説に「八朔〔はっさく〕の雪」〔著者・高田郁、ハルキ文庫〕があります。大阪から江戸に来た女料理人が、過酷な運命に翻弄されながら、料理の腕を磨いていくというストーリーですが、そこには江戸の人々の食へのこだわりが、生き生きと描かれています。注目を集め始めている作品ですので、興味のある方は是非お読み下さい。なお、八朔とは八月一日のことです。

 江戸の「三ない主義」を真似て、自分の健康哲学を三つ掲げ、実践している人は多数います。ある評論家の三大目標は、「酒やめない」「スケベやめない」「言うこと聞かない」です。まず、大好きな酒をやめてまで長生きしたくはなので、死ぬまで飲み続けるという宣言です。まさに「酒なくて、何で己が桜かな」の境地です。
 次の「スケベ」とは異性を含め、あらゆる面に好奇心を持ち続けることです。音楽、絵画、和歌・俳句、パソコンと趣味は何でも結構ですが、そのサークル仲間に素敵な異性も加われば、張り合いも出るでしょう。最後の「言うこと聞かない」とは、ある年齢になると長年の体験から自分なりの指針が出来ているはずなので、生き方や健康のあり方について他人の意見に惑わされるべきでない、という意味です。この中には、生命に関わる進行がんなどは別にして、医師のアドバイスも入るようです。

 今回の江戸っ子の人生哲学を総括すると、悪いストレスを溜め込まないのが一番のキーワードではないでしょうか。これは何度も述べてきたことですが、ストレスには良、悪の二つがあります。そして、考え方によってどちらにも移行します。早い話、孫を可愛いと思えば良いストレスに、憎いと感ずれば悪いストレスになります。一緒に暮らしている伴侶については、さらに大きく左右されます。
 そこで皆さんも、それぞれの「三ない主義」を設定してはいかがでしょう。私は真っ先に「ボケたくない」を掲げましたが、後の二つはこれから、ゆっくりと考えるつもりです。 
医療ジャーナリスト 大谷 克弥
                 (元 読売新聞東京本社記者)


● 一病息災 続・「笑い」の効用

前回「笑い」が健康や認知障害の回復につながるということを医学的な見地から紹介しました。  実際、"笑いの世界"はどのような場(会話、娯楽、運動など)にもあるので、大いに接しましょう。身近にも、なるほどと「笑い」を誘うようなことがあると思います。

今回もまた、こんなどどいつ(都々逸)をみつけました。
 ○惚れて通えば 千里も一里 広い田んぼも 一またぎ
 ○惚れて通えば 千里も一里 逢えずに帰れば 又千里
 ○恋に焦がれて 鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす
 ○明日は天気と ラジオは言うが いつもふられる 野暮な奴(雨宮大吉)
 ○まさか言えない 燃えてるなどと このときゃ口惜しい 年の功(風迅洞)
みんな生き方さまざま。
兎に角、今年は大らかに行きましょう。 "笑う門には福来たる!"です。
理事 和田 卓郎


●「カンボジア便り」その6

カンボジアには子供が多い!! 戦後の日本のように、中高齢者が少なく子供が多い人口分布です。村に行くとたくさんの子供たちがいます。大きい子が小さい子を連れて遊んでいます。子守もしています。
さて、カンボジアで「男の子」と「女の子」を見分けるのにはどうすればよいかご存知ですか? 答えは「ピアス」。驚くことに、カンボジアでは生まれてすぐに女の赤ちゃんの耳に穴をあけるのです。小さい子供が当然のように耳にピアスをつけているのはかわいいですが、針を刺す時に感染は大丈夫かな、と職業柄ついつい思ってしまいます。
というわけで、針から感染する病気、その中でもウイルス性肝炎について調査を始めています。
理事 藤本 真弓


●Dr.津谷のコーナー「がんになったら手にとるガイド その1」

あけましておめでとうございます。昨年は,日本という国が世界の中の一員であることを改めて感じる事件が多かった年でした。今年は,内政の混乱からの立て直しから,明るく健全な日本が世界に貢献できるような社会になっていくことを願っています。

さて,今年のこのコーナーでは前回紹介した,国立がん研究センターがまとめた,"がんになったら手にとるガイド"をシリーズで解説していきましょう。
第1部,"がん"といわれたとき
"がん"の診断を告げられてから,つらい気持ちと向き合いながら,これからの治療のことについて考えていくときの情報がまとめてあります。
まず,つらい気持ち,これからの不安,衝撃,動揺は当然おこることですが,この気持ちをまず,自分でため込まないで,家族,友人,担当医などに話してみることです。このがんネットワークに参加されているみなさまは,同じ経験をされた方が周囲におられますし,我々スタッフもできる限りサポートさせていただきます。
がんと告げられた後に受けたショックや動揺は,多くの場合,時間の経過とともに少しずつ和らいでいきます。心の整理ができてくると,もう一度,担当医からの説明に対して,疑問点,不明点などを整理して下さい。もう一度,改めて担当医に説明を求めるのも一つの方法です。

担当医に確認しておくチェック項目
●何という、がんですか。
●がんとわかった検査の結果を教えてください。
●その診断はもう確定しているのでしょうか、
  それともまだ疑いがあるという段階なのでしょうか。
●がんはどこにあって、どの程度広がっていますか。
●私が受けることのできる治療には、どのようなものがありますか。
●どのような治療を勧めますか、ほかの治療法はありますか。
  その治療を勧める理由を教えてください。
●今までどおりの生活を続けることはできますか。
●普段の生活や食事のことで気を付けておくことはありますか。

以上の点を知っておくことは,これからの治療を受けたり,在宅での生活をしていく上で非常に大事なことです。そして自分の状態や治療に対する情報を集めていきましょう。やはりここでも注意することは,ひとりで問題を抱え込まないことです。必ず家族,友人,仲間,担当医など,信頼できる人と気持ちを共有することが必要です。しかし、ひどく落ち込んで何も手に付かないような状態が続くようであれば,専門的なこころのケアが役に立ちます。
次回はこころの専門的ケアについて解説します。
副理事長 津谷 隆史

国立がんセンターのホームページをご参照ください。
http://ganjoho.ncc.go.jp/public/qa_links/hikkei/hikkei01.html


● 井上さんの書籍紹介
  
「いまも、君を想う」
川本三郎 著
新潮社 2010年5月初版


はじめに
まず、産経新聞文化部、渋沢和彦さんの評より。
「朝、土鍋でご飯を炊き、それを夫人の仏前に供えてから原稿用紙に向かったという。愛妻への追想記は、透明感に包まれ、読み手の心も浄化されていく。仲がいい夫婦でも死は避けられない。いずれは1人となる。独りの老後をどう生きていくか。そんなことを考えさせられる。」
医療が進歩した現在でも、がん患者さんの2人に1人は亡くなる。本書は、大切な人を失った場合、どのように対峙していけばよいのか教えてくれたので紹介する。

川本三郎さん、奥様の紹介
1944年東京都のお生まれ。映画評論家、文芸評論家。「林芙美子の昭和」にて、2003年、毎日出版文化賞と桑原武夫文学芸賞を受賞。妻恵子さんは、1951年愛知県一宮市のお生まれ。ファッション評論家、ファッション史研究家。
奥様の病歴等
2006年10月、食道癌と診断された。進行していた。
2007年1月手術。肝臓にも転移していた。術後化学療法はされず、漢方療法を選ばれた。
2008年6月17日未明、ご主人様とお母様に見守られながら、永眠された。

本書の内容・感想
『家内、川本恵子は平成2008年6月17日の午前1時44分に逝った。57歳だった。私より七歳年下の家内がこんなに早く逝ってしまうとは夢にも思っていなかった。本当にこたえた。
1973年に結婚した。35年連れ添ったことになる。一緒にいるのがもう自然の、当たり前の状態になっていたから、一人になって正直なところ毎日、寂しい。家内に何もしてやれなかったという後悔、無力感にも襲われる。』-あとがきより-
このような時、役立つことは、「幸せだった日々を思い出すこと」と本書は教えてくれる。
三鷹での新婚生活、些細な事での夫婦喧嘩、闘病生活のことなど、コラージュ風に書かれている。川本さんがつまずかれても、「ツーストラクク・ノーボール、それでもニッコリまけないぞ」といって励まされていた。また、今の生活の様子も記されている。伊藤茂次の詩集より引用されている。「一人食う飯はまずく、女房と食べた晩飯は楽しかった。」

葬儀もよい思い出である。
私の心に響いたのは、次の文章である。無伴奏チェロ組曲を聴いているようだ。『静かな葬儀をするということ』より抄出する。
『家内が亡くなったあと、すぐ葬儀の準備をしなければならなかった。さっきまで生きていた人間をもう死者として扱う。家内に申し訳ない気持ちになる。せめて出来ることは、静かな祈りのなかで葬儀を行なうことだった。
葬儀無用論があるのは知っている。しかし人間の暮らしには、日常生活とは別の時間が流れる「儀式」が必要だと思う。葬儀はその儀式のなかでもっとも厳粛なもので、ひとは儀式のなかに身をおくことで死者を想い、そしていずれは自分にも必ずやってくる死について考えることが出来る。日常生活と、死という非日常を儀式によってきちんと分ける。「形式ばる」と言うが、死という圧倒的な不条理を前に「形式」は必要だと思う。悲しみという生まの感情を形式によって一度冷却する。

いくつか希望を出した。
葬儀の場所は小さくてもいいから、その日そこでひとつしか儀式が行なわれないところにしたい。幸い、葬儀社の方が杉並区のある寺に付属する小さい葬儀場を探してくれた。
通夜の席の酒もいやだった。喪主の方が客への礼儀として「故人はにぎやかなのが好きでしたから」と酒をすすめる。それはしたくなかった。家内がやつれ、そして静かに息を引き取っていった姿が目に焼きついている人間には「故人はにぎやかなのが好きでしたから」と決まり文句を言う気にはどうしてもなれなかった。
弔電の披露を割愛していただくこと。弔電は葬儀に出席出来なかった人のもので、披露されるのは名のある偉い人のものが多い。これはなんだか肩書きを大事にしているようでいやだった。
お経と弔辞。そして来て下さった方々のお焼香。願っていたとおりの静かな葬式となった。』

私も、このような葬儀をしてもらいたいし、妻にもしてやりたい。理想に近い葬儀を行うことが、死者を弔う第一歩であり、悲嘆の仕事(グリーフワーク)の第一歩であるのではなかろうか。
悲嘆(grief)とは、死による喪失から生じる心の苦しみである。精神医学者ロバートバックマンは、「親が亡くなるときには過去を失い、配偶者がなくなるときには現在を失い、子供が亡くなるときには未来を失う」と言っている。しかし、その失った時間を埋めていかなければいけない。残された者に課せられて仕事なのである。
私は、本書によって始めて、グリーフワークについて勉強した。皆様にも是非読んでいただきたい。
会員 井上 林太郎


● 広島県内のがん関係イベント情報

○のぞみの会・広島・講演会
日時:2011年1月15日(土)午後2時~4時30分
場所:広島市中区地域福祉センター(広島市役所向い側「大手町平和ビル」5階)
講演:「乳がんに関する最新情報」大谷 彰一郎先生(広島市民病院乳腺外科副部長)
参加費:のぞみの会会員無料、一般500円
連絡先:のぞみの会・広島 廿日市市四季が丘3-10-13 桜井征子(TEL&FAX :0829-39-7213) 

○平成22年度第5回「市民のためのがん講座(全6回シリーズ)」
日時:20011年1月22日(土)午後2時~4時15分
場所:広島市中区地域福祉センター
(広島市役所向い側「大手町平和ビル」5階大会議室) 
テーマ:「婦人科がんについて:最新の話題」
平田 英司先生(広島大学病院婦人科病棟医長) 
    「婦人科がんのピンポイント放射線治療」
廣川 裕(広島平和クリニック院長、当会理事長)
受講料:当会会員:800円、協力団体会員:1,100円、一般:1,300円
連絡先:事務局(TEL/FAX 082-249-1033, E-mail:info@gan110.rgn.jp)
○平成22年度第6回「市民のためのがん講座(全6回シリーズ)」
日時:20011年3月26日(土)午後2時~5時
場所:広島市中区地域福祉センター(広島市役所向い側「大手町平和ビル」5階大会議室) 
テーマ:「肺がんの診断と治療について」有田 健一先生(広島赤十字・原爆病院内科部長) 
    「肺がん治療と化学放射線治療法」廣川 裕(広島平和クリニック院長、当会理事長)
    講演終了後「懇話会」
受講料:当会会員:800円、協力団体会員:1,100円、一般:1,300円
連絡先:事務局(TEL/FAX 082-249-1033, E-mail:info@gan110.rgn.jp)


●編集後記

あけましておめでとうございます。同じ挨拶をしてからもう一年経ったとは思えません。年をとると時の経つのが速いのは、自分の生きてきた年月との比率が原因とか。5歳の子供にとっては一年は人生の5分の一、かたや50歳の人にとっては50分の一、道理で速いはず、と納得しましたが、この説は本当なのでしょうか?
今年は津谷副理事長、井上会員からの新たな連載が始まりました。充実の紙面を目指してがんばりますので、ご声援よろしくお願いします!(ま)

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■ 発行: NPO法人 がん患者支援ネットワークひろしま 事務局
     http://www.gan110.rgn.jp
■ お問合わせ: info@gan110.rgn.jp
TEL & FAX:082-249-1033 
■ Copyright: NPO法人 がん患者支援ネットワークひろしま

 このニュースレターは、当会の会員に配付しております。
 当会の活動を充実させるため、入会希望者のご紹介をお願いします。
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